『リリーのすべて』
もう2週間前の話になりますが、『リリーのすべて』を観てきました。
宣伝文句に、こうあります。
「夫が女性として生きたいと願った時、妻はすべてを受け入れた」
テレビで予告映像を見たときから、どうしても観たいと思っていた映画です。
実話をベースとした映画です。世界で初めて性転換手術を受けて女性となった人と、その人の妻(だった)女性の物語。今から80年以上前のお話です。
80年前は「性同一性障害」という言葉は存在しませんでした。自分の体と心が一致していないことに苦しむ人は、精神分裂症や性的倒錯者と見なされていた時代です。
画家・アイナーと、同じく画家のゲルダは愛し合う夫婦。しかし、ある日から、アイナーが心の奥深くに封じ込めていた本質が、目覚めてしまいます。
「自分は、アイナーという男ではない。リリーという女性だ」
アイナーもゲルダも、困惑し、混乱し、傷つく。そして出した結論は、「アイナーという男性はこの世から消え、リリーという女性に生まれ変わる」でした。
愛する人の本質を受け入れることは、愛する人がこの世からいなくなること。それを承知でアイナーを、リリーを支えるゲルダ。私には、ゲルダのアトリエが血まみれに見えました。リリーの心だって傷だらけなのですが、私はゲルダのほうに心を寄せてしまいました。
史実とは違うところも多くあるようで、批判する人もいるようです。とくにトランスジェンダーの方たちからは「当時の手術は命と引き換えのような危険なものだったけれど(リリーは命を落します)、今はそうした危険はすごく低い。そうしたことを、きちんと伝えなくてはならない」という意見が出ているそうで、それはそれでもっともなことと思います。けれど、それにしても、この映画はすごかった。観てよかった。
じつは最初、新宿で観るつもりだったのですが、劇場が次の回も、その次の回も満員! 私もちょうど忙しい時期で、この日を逃すと、上映期間が終わってしまう可能性がありました。なので、あきらめるわけにはいかず、日比谷に移動して、なんとか観ることができました。そうまでしても、絶対に観たい映画でした。観てよかったです。
職場の映画好きの人に、『リリーのすべて』の感想を話していたところ、脇で聞いていたおばさんが「あなたも女になりたいと思った?」と、ちゃちゃを入れてきました。映画の感想の部分は聞き流し、性転換の部分だけに、くだらない反応をしてきたわけです。
職場では、円満円滑に、おだやかに過ごしたいと思っている私ですが、思わず侮蔑の色を浮かべてしまいました。
けれどその侮蔑は、私自身にも向けられています。小中学生のころを振り返ってみれば、平気で「オカマ」だとか「ホモ」だとかの言葉を、冗談や悪口の意味合いで使っていました。自分の中の差別に気づき、できるだけそうした部分を排除しようとは思っていますが、染みこんだ汚れは、そうやすやすとは抜けるものではないでしょう。自分の中に差別や偏見の意識があることを自覚し、恥じなければ、問題はなくならない。
『リリーのすべて』の時代から、80年以上が経ち、医学は目覚ましい進歩をしました。そして今も進歩しつつあります。
それに比べ、人々の意識改革の歩みは、なんと遅いことでしょう。
私が侮蔑の視線を向けたおばさんは、私自身なのです。
世田谷アートフリマvol.25 終了
アップが遅くなりました。
「世田谷アートフリマvol.25」盛況のうちに終了いたしました。遊びに来てくださったたくさんの方々、ありがとうございます!
豆本ワークショップ、初日はたいへんな忙しさでしたが、2日目は、やや落ち着いたようす。初日の参加者が31名、2日目は21名のお客様に、豆本作りを楽しんでいただけました。
今回、アートフリマスタッフの方から、参加者の記名表を渡されました。参加人数確認が目的だと思ったので、ご記名をお願いするときに「本名でなくてもいいですよ。芸名でもいいですよ」と言ってみました。これが、意外と喜ぶ人が多い!
小学生の女の子が「アリス」と書いて「私、アリスだって!」と嬉しそうにしていました。かわいいですね~。
有名人も来ましたよ。ほら。
陸上競技の大スターです(笑)。
ウサイン・ボルト選手を皮切りに、プリンス、マイケル・ジャクソン、レディ・ガガ、シュワルツネッガーも来ました。あと、鳥山明先生!
こんなことで喜んでもらえるなら、芸名名簿、ありですね。
友人が遊びに来てくれましたが、ちょうど満席だったので、散らかっている私の席で作ってもらいました。ごめんね~。
世田谷アートフリマ、次回は9月かな?
みなさん、どうぞ遊びにいらしてください。
「FMまつもと」で『マザー・アンブレラ つゆさきの国』放送
4月8日(金曜日)、ラジオ・FMまつもとで私の書いた作品『マザー・アンブレラ つゆさきの国』の朗読がオンエアされました。全5回で、毎週金曜9:45~10:00の読み聞かせのコーナーで放送されます。
FMまつもと(長野県松本市のコミュニティFM放送)
9月までは、繰り返し放送されるそうです。
朗読はやまおきあやさん。
「朗読するお話を探している人がいる」と、イラストレーターのかちのちのらさんからご紹介いただきました。かちのちのらさんのイラスト、最近ではNHKの『趣味の園芸』で登場しています。
育てたい花 春夏秋冬|趣味の園芸50th|くらしのパートナー:あなたの毎日の暮らしを豊かにするEテレ(NHK教育テレビ)の生活実用番組ポータルサイトです。
やまおきさん、どうやら日本酒好きの方。私も日本酒大好きなのですが、「では一度会ってお話を」ということになった日が、なんと、とある酒蔵の蔵開き! もう、打ち合わせなんだか、飲み会なんだか、わからないようなテンションの初対面でした。
『つゆさきの国』は、「マザー・アンブレラ」シリーズの第4話。やまおきさんのお話を伺い、一番適していると思われるお話をお渡ししました。1話読み切り形式のお話なので、第4話からでも、ぜんぜん問題ないんですよ~。
放送全5回のうち、第1回放送分の本文を掲載します。
放送が入る地域にお住まいの方、どうぞよろしくお願いします。
マザー・アンブレラ4 つゆさきの国
台風が通りすぎた朝早く、わたしはワクワクしながら歩いていた。水たまりが、空を映している。いい天気。
今日は水曜日。町内は燃やさないゴミの回収日。この日はいつも早起きして散歩する。わたしはゴキゲンだった。今日は期待ができる。
思った通り、こわれたカサは何本も捨てられていた。わたしはゴミ捨て場にかけよる。お目当てはカサのつゆさき。
カッターを出すと、カサから気に入ったつゆさきを取り外して、ポケットにしまった。大漁、大漁。
わたしは鼻歌を歌いながら、うちに戻った。
カサのホネの先には「つゆさき」と言う部品がついている。布地をピンと張り、カサをぬらす雨のしずくを集めて落とす役割をする部品。
わたしはある日、この部品が人の形に見えることに気がついた。女子トイレのマークみたいな、テルテルボーズみたいな形をしている。マジックで顔をかいてみたら、すごくかわいい人形になった。このときから、わたしはつゆさきに顔をかいて集めるようになった。
一度、家のカサのつゆさきを全部はずして、お母さんに怒られたことがある。だからわたしは、燃やさないゴミの日に捨てられる、こわれたカサからつゆさきを取ることにした。どうせ捨てるカサだもの。つゆさきを取っても怒る人はいない。
集め始めると、つゆさきにもいろいろな種類があることがわかった。金属でできたもの、プラスチックでできたもの、木でできたもの。人型じゃないものもあるけど、これは集めていない。カサのホネとくっついていて、はずすことのできないものもあった。
わたしの部屋には、こうして集めてきたつゆさきたちの国がある。机の下の、大きなクッキーのカンがふたつ。これが「つゆさき王国」。フタをあけると、中にはあつ紙で作ったお城があって、いろんなお店があって、たくさんの家がある。そのそれぞれに、つゆさきの人形が住んでいる。キリッとした顔のお城の兵隊、いつも笑顔のお花屋さん、おこりんぼのかじ屋さん。みんなわたしが顔をかいた。
今日手に入れたのは、子供用のカサについていた、黄色くて頭の大きなつゆさき。この子たちは幼稚園に入れてあげよう。おちょうし者の顔、いじめっ子の顔、泣き虫の顔。人気者のかわいこちゃんも。
つゆさき王国を見ているときが、わたしの一番楽しい時間。いつまでも見ていたいけど、そういうわけにもいかない。
「絵理ー! 早くごはん食べないと、学校におくれるわよー!」
お母さんが台所から、大きな声で言う。わたしは「はーい!」と返事をして、つゆさき王国のフタを閉めた。
近江屋洋菓子店の苺ショートサンド
「近江屋洋菓子店でケーキを食べよう!」ということになり、神田に行ってきました。
ショーケースを覗いて、一番目を引いたのがこちら。苺ショートサンド、680円。
すぐに注文しようとする彼女。いやいや、しばし待たれよ。お昼を食べていないことだし、まずはパンとドリンクバーを注文。ドリンクバーには、コーヒー、紅茶はもちろん、フレッシュな果物のジュース(この日は、イチゴ、パイナップル、ハネジューメロン)、ホットチョコやホットミルク、そしてスープがあります。もちろん、飲み放題。
カップが、レトロでかわいいです。絵柄全体を写してみました。マークは読売ジャイアンツのにも似てますが、よく見ると「OY」ですよ~。
この日はカウンター席に座りました。椅子の位置に対し、カウンターがやや高めなので、なんとなく子どものころを思い出したりして。
パンとスープを食べ終えて、ケーキを注文。トップ写真の苺ショートサンドは外せない! 丸のままの苺がたっぷり! 数えてみたら、上に大きいのがひとつあり、周囲に9個の苺が挟まれておりました。そしてなんと! 中にも、ラズベリーサイズの小さな苺が4粒! 近江屋、出し惜しみしません! これで680円は安い。
サバランとサワーチェリータルトも注文。ふたりで行くと、半分ずつ楽しめるからおトクだね。
コーヒーの濃さは3種類から選べますが、濃いめがおすすめ。
しかし、この外観、初めての人はケーキ屋さんと気づかないよな~。
写真展 ザ・サプール
渋谷西武で開催中の写真展「ザ・サプール コンゴで出会った世界一おしゃれなジェントルマン」を観てきました。
おしゃれにはあまり興味のない私ですが、やっぱり、おしゃれな人を見れば「かっこいいな」「すてきだな」くらいは思います。その程度の私ですが、サプールにはとても惹かれるのです。
なぜか。それは彼らが、見た目だけでなく、心もすてきだからです。
内戦などで貧困層の多いコンゴ。一家が1日平均130円で暮らしている状態。そんな中で、1着何万円もするブランド・スーツに身を包むサプール。キメキメにキメている彼らは、ただの着道楽ではない。
いい服を着て、カッコつけて歩き、ときには見栄を切り、独特のステップを披露する。当然、注目が集まる。その視線に恥じない人間でなければならない。気高い精神と愛で心を満たせている者でなければ、サプールではないのです。
サプールは決して暴力を振るわない。高価なステッキや時計を持つその手に、銃やナイフを握ることはない。
パネルの下に、こんな言葉が添えてありました。
「軍靴を響かせ行進するのでなく、ブランドスーツを身にまとい、軽やかにステップを踏むことこそ平和の尊さ、サプールの喜びなんです」
貧困に喘ぐこの国では、仕事も見つからず、暴力に走ってしまう若者が多いらしい。そんな若者たちも、サプールに憧れる。
「サップになりたいなら、まずは仕事を探すことがスタートだよ」
パネル下のコメントは、胸にしみるものがいくつもありました。
「私たちは平和の使いなのです。悪を拒絶し、美というものしか受け入れない。それこそがサップの定義です」
「サプールにとってエレガントである事、礼儀正しく振る舞い他人を尊敬する事、非暴力を貫く事が何よりも重要なのです」
「戦争には何ひとつ良い事はない。何も残さず失うだけ。もし洋服か武器かという選択があれば誰もが洋服を選ぶでしょう」
おしゃれで高価なスーツは、気高い精神のあらわれなのです。
展示にしみじみ感動し、会場を出たところ、なんと、写真のモデルであるセブランさんがサプライズ訪問!
ステップなどを披露してくれました! 超ラッキー!
さすがサプール、楽しく驚かせてくれるなぁ。