「FMまつもと」で『マザー・アンブレラ つゆさきの国』放送
4月8日(金曜日)、ラジオ・FMまつもとで私の書いた作品『マザー・アンブレラ つゆさきの国』の朗読がオンエアされました。全5回で、毎週金曜9:45~10:00の読み聞かせのコーナーで放送されます。
FMまつもと(長野県松本市のコミュニティFM放送)
9月までは、繰り返し放送されるそうです。
朗読はやまおきあやさん。
「朗読するお話を探している人がいる」と、イラストレーターのかちのちのらさんからご紹介いただきました。かちのちのらさんのイラスト、最近ではNHKの『趣味の園芸』で登場しています。
育てたい花 春夏秋冬|趣味の園芸50th|くらしのパートナー:あなたの毎日の暮らしを豊かにするEテレ(NHK教育テレビ)の生活実用番組ポータルサイトです。
やまおきさん、どうやら日本酒好きの方。私も日本酒大好きなのですが、「では一度会ってお話を」ということになった日が、なんと、とある酒蔵の蔵開き! もう、打ち合わせなんだか、飲み会なんだか、わからないようなテンションの初対面でした。
『つゆさきの国』は、「マザー・アンブレラ」シリーズの第4話。やまおきさんのお話を伺い、一番適していると思われるお話をお渡ししました。1話読み切り形式のお話なので、第4話からでも、ぜんぜん問題ないんですよ~。
放送全5回のうち、第1回放送分の本文を掲載します。
放送が入る地域にお住まいの方、どうぞよろしくお願いします。
マザー・アンブレラ4 つゆさきの国
台風が通りすぎた朝早く、わたしはワクワクしながら歩いていた。水たまりが、空を映している。いい天気。
今日は水曜日。町内は燃やさないゴミの回収日。この日はいつも早起きして散歩する。わたしはゴキゲンだった。今日は期待ができる。
思った通り、こわれたカサは何本も捨てられていた。わたしはゴミ捨て場にかけよる。お目当てはカサのつゆさき。
カッターを出すと、カサから気に入ったつゆさきを取り外して、ポケットにしまった。大漁、大漁。
わたしは鼻歌を歌いながら、うちに戻った。
カサのホネの先には「つゆさき」と言う部品がついている。布地をピンと張り、カサをぬらす雨のしずくを集めて落とす役割をする部品。
わたしはある日、この部品が人の形に見えることに気がついた。女子トイレのマークみたいな、テルテルボーズみたいな形をしている。マジックで顔をかいてみたら、すごくかわいい人形になった。このときから、わたしはつゆさきに顔をかいて集めるようになった。
一度、家のカサのつゆさきを全部はずして、お母さんに怒られたことがある。だからわたしは、燃やさないゴミの日に捨てられる、こわれたカサからつゆさきを取ることにした。どうせ捨てるカサだもの。つゆさきを取っても怒る人はいない。
集め始めると、つゆさきにもいろいろな種類があることがわかった。金属でできたもの、プラスチックでできたもの、木でできたもの。人型じゃないものもあるけど、これは集めていない。カサのホネとくっついていて、はずすことのできないものもあった。
わたしの部屋には、こうして集めてきたつゆさきたちの国がある。机の下の、大きなクッキーのカンがふたつ。これが「つゆさき王国」。フタをあけると、中にはあつ紙で作ったお城があって、いろんなお店があって、たくさんの家がある。そのそれぞれに、つゆさきの人形が住んでいる。キリッとした顔のお城の兵隊、いつも笑顔のお花屋さん、おこりんぼのかじ屋さん。みんなわたしが顔をかいた。
今日手に入れたのは、子供用のカサについていた、黄色くて頭の大きなつゆさき。この子たちは幼稚園に入れてあげよう。おちょうし者の顔、いじめっ子の顔、泣き虫の顔。人気者のかわいこちゃんも。
つゆさき王国を見ているときが、わたしの一番楽しい時間。いつまでも見ていたいけど、そういうわけにもいかない。
「絵理ー! 早くごはん食べないと、学校におくれるわよー!」
お母さんが台所から、大きな声で言う。わたしは「はーい!」と返事をして、つゆさき王国のフタを閉めた。