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続・どんぐりも背くらべ

童話作家・九十九耕一のブログ

ヒースランドと私 5 vol.13~vol.16

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 vol.13は'00年秋発行。
『片側の老人』というお話を掲載しました。
 3キロほど離れたアパートに引っ越した青年。すべての荷物は、手押し台車で20往復・2日半かけて運んだ。その話を、半ばあきれて聞く彼女に、引っ越し中に見た不思議な光景を話す。
 引っ越し作業の時に渡る細い川。川辺には大きな木が1本。青年はこの木を眺めるのが好きだが、もうひとり、いつも木を眺めている老人がいた。木のはす向かいに住む老人で、折り畳み式のイスに腰掛け、木を眺めている。けれど、この老人を見かけるのは、引っ越し作業の往路のときのみ。空台車を押す復路では、老人の姿はない。引っ越し作業最後の日、なんとこの木を切り倒す工事が行われた。老人の表情からは、なにも読み取れない。枝が払われ、クレーンで固定され、いよいよ幹にチェーンソーが入る。と、老人の姿が点滅しだした。木が完全に切り倒されると、老人の姿は消えてしまった……。近所の人の話で、老人はもうずいぶん前に亡くなっていたことを知る。この木が大好きだった老人だったと。青年は、おそらく自分が見ていたのは、木の記憶だったのだろう、と思う。木もまた、老人が大好きだったのだと。
 引っ越し作業のくだりは、私が実際にやったことです。若かったんですね~(笑)。体力が無尽蔵にあったような時代でした。木を眺めて日向ぼっこをするおじいさんを見かけたのと、川辺の大木が伐られてしまったのも、実話です。それらをミックスして、このお話になりました。
 作品集『トゲなしサボテン』(愛育社)に収録。

 vol.14は'01年春に発行。『ホットミルク通信』を掲載。ホットミルクが好きなおじいちゃんと孫娘のお話。おじいちゃんが愛用しているカップには、不思議な力があった。ホットミルクの表面に張った薄い膜を取ると、世界中のどこかのカップとつながるようなのだ。そのカップから見える景色が、ミルクの表面に映し出される。もっとも、たいてい、よその家の天井しか見えないのだけれど。やがて孫娘も大人になり、就職して実家を出ることに。ぼんやりとしていたため、孫娘はおじいちゃんのカップを落し、真っ二つに割ってしまった。手先の器用なおじいちゃんは「大丈夫。直せる」と。会社の寮に入った孫娘の許に、おじいちゃんからおかしなカップが送られてくる。別のカップと金継ぎという手法でくっつけられた、例のカップだ。ホットミルクを注ぐと、手を振るおじいちゃんが映し出された。
 このお話は「金継ぎ」という修復方法に興味を持ったことから生まれました。カップのモデルは、高校生の時好きだった彼女からプレゼントしてもらったグレーのカップです。渡されたとき「このカップには希少価値がある」と言われたことも、お話が生まれる要因になっています。結局彼女の言う「希少価値」は、「普通のカップより、ちょっと軽い」というだけで、「希少価値?」というものでしたが(苦笑)。

 vol.15は'02年秋発行。前号から間が空いているのは、この号から年1回の発行となったためです。
『マザー・アンブレラ』を掲載。
 髪をお団子に結った、変わった傘を持つおばあさんのお話。この傘、派手な虹色で7本骨、傘の裏は星空が描かれており、つゆ先がひとつだけ星形になっている。雨の日、自転車にぶつかられたところを目撃した青年が助け起こす「骨が折れた」という言葉にギョッとするが、折れたのはおばあさんの骨ではなく、傘の骨。青年は傘を直してあげる。助けられたのはおばあさんなのに、なぜか元気づけられた青年。
 当初、読み切りのつもりで書いたお話です。ところが、書き終えた直後から次々とおばあさんのエピソードが湧いてきて、結局シリーズ化することにしました。第1話とも言うべきこのお話のラストでは、おばあさんはちょっとだけ魔法めいたことをしています。でも、シリーズ化する上で、そういう設定は無しにしようと思いました。無力なおばあさんで、むしろ助けられる存在。なのになぜか、助けた人が元気をもらうお話にしようと思いました。

 そういうわけで、'03年発行のvol.16には『マザー・アンブレラ2 傘の絵描き』を掲載しています。
「傘に絵、描きます。傘の柄、彫ります」という看板を掲げて、雨の日に歩道橋の下でお店を開く美大生。おばあさんの変わった傘をスケッチしたくて、声をかける。スケッチが終わり、向かいの喫茶店でおしゃべりをしている間に、傘立てに差してあったおばあさんの傘が盗まれてしまう。必死の大捜索! 犯人を見つけたものの、逆にすごまれるが、おばあさんが柔らかく割って入ることにより、事は穏やかに収まった。

『マザー・アンブレラ』を書いてから、どうしてもいい傘が欲しくなり、貧乏暮らしの中お金を貯め、前原光榮商店でセミオーダーの傘を買いました。今でも愛用しています。


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