続・どんぐりも背くらべ

童話作家・九十九耕一のブログ

パンをふんだ娘

 立原えりかの童話塾機関誌「ヒースランド」vol.28のレイアウトに、ただ今とりかかっております。
 今回、グラビアページ「精霊異聞」のタイトルは『パンを踏んだ娘』。えりか先生の文章の方はまだ読んでないけれど、同タイトルのアンデルセン童話と、実際のパン作りとを絡めたものになるのかな?
 カメラマンのミヤジシンゴさんから写真が送られてきたので、レイアウト開始。
 まずはアンデルセンの童話を読み返して、レイアウトの参考にします。本棚から新潮文庫アンデルセン童話集を引っ張り出したのですが……。

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 ない! 『パンを踏んだ娘』は収録されていませんでした……。
 仕方なく、本棚の奥底にしまわれている岩波文庫版を引っ張り出しました。これを出すのは3年ぶりくらいか?

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 6巻に『パンをふんだ娘』が収録されていました!

 このお話の、簡単なあらすじを。

 貧しい家庭に生まれた娘・インゲルは、とっても性格の悪い娘だけれど、とびきりの美少女。あるときインゲルは、お金持ちの屋敷に奉公に行くことに。奉公先ではとてもかわいがられ、美しいドレスや靴が与えられたため、インゲルはますます増長。
 ある日、ご主人様から「たまには帰って、お母さんに顔を見せておやり」と言われ、お土産に大きなパンをいくつか渡される。ところがインゲルは、目の前のぬかるみを、ドレスや靴を汚さずに渡るため、パンを投げ入れ、それを踏んづける。
 途端にインゲルは、ぬかるみの中に沈んでしまい、そのまま地獄に落ちてしまう。
 そのようすを見ていた者がいて、世間では「自業自得」と噂される。
 ところがひとりの少女が、インゲルを憐れんで涙を流す。少女はおばあさんになり、天に召されてからもインゲルを憐れんだ。その涙のおかげでインゲルは、みすぼらしい灰色の小鳥になって、地獄から解放される。
 小鳥となったインゲルは、食べ物の少ない時期も、自分はわずかばかりしか食べず、他の小鳥たちにエサを譲る。そうして、譲ったパンのクズが、かつて踏んづけたパンと同じ量になったとき、みすぼらしい小鳥は白いカモメとなって、太陽に向かって飛んでいった。

 ミヤジシンゴさんから送られてきた写真は、小麦粉を練って、パンが焼き上がるまでの行程を写したもの。
 私もパン屋で働いた時期があり、なかなか考えること多く、レイアウトしました。
 当たり前の話ですが、パン屋に入った当初、それはそれはパン作りがヘタクソでした。私は「成形」と言って、パンを焼く直前の形にする係だったのですが、私のせいで不格好になり、お店に並べられないパンもありました。
 私は童話作家ですから、パン作りも童話で精進することにしました。パン生地を擬人化し、心の中で語りかけながら、形を整えるようにしました。その甲斐あってか、店頭に出しても恥ずかしくない成形ができるようになりました。
 その後、仕込み、分割、焼成というポジションも経験したのですが、そんなわけで、パン作りに対する思い入れが強いのです。
 心を込めて作ったパンが、ぬかるみに投げ込まれ、踏んづけられるところを想像すると、怒りよりも悲しみを強く感じます。
 それは、ほかの食べ物でも同じことですね。思いがこもったものを、粗末に扱うことは大罪です。
 そんなことを考えていると、どうしても原発のことを考えてしまいます。
 反対の声には「大丈夫だ。安全だ」と言っておきながら、いざ事故が起きると「想定外だった」って……。そして収集もつかないうちに再稼働。これは、パンを踏みつける行為です。
 日本というインゲルは、いつ目覚めるのでしょうか?

 あ、「ヒースランド」vol.28は、10月末か、11月中に発行になると思いまーす!


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